ヒミツの音楽会

☆私は去年から童話創作のサークルに入ってます。なんとかかんとか、1年に3作ぐらいのペースで、子供が読めるお話を作っています。実は本日の午後から、新作批評会なので、これから数時間のうちに一本作って持っていかなくちゃなんですが、一文字も書いておりませんっっ!前回作った話の続編にしちゃう予定だから、私の締め切り神経がちょっと余裕こいてるようです。創作の神様がまだ降りてこないんだよ〜^^;
去年秋、今年初めと、前後編に分けて書いた、そのおはなしを恥ずかしながらアップしてみます。私の大好きな音楽とか、第3世代関係にヒントを得て書きました。よかったらヒマつぶしに、どぞ♪


「ヒミツの音楽会」


まっくらな夜空に、たくさんの星たちがまたたき、半分の月が、低い空に光っています。川のほとりでは、虫たちが、きそうように、たくさん鳴いています。
そこへ、二人のきょうだいが、かい中電灯を手に、ヒタヒタと歩いてきました。
まことは小学五年生。あつこは小学一年生。二人は土手の草のしげみに、こしを下ろしました。
あつこは、虫たちに聞かせるように、持ってきたハーモニカを吹き始めました。
♪プワーブワプワワワーーー
まこともそれに合わせて、リコーダーを吹きました。
♪ポーポポポホホホーーー
虫たちは、ビックリしたように、シーンとしましたが、またすぐに、前よりももっとたくさんの声で、鳴き始めました。二人は、クスクスと笑いあいました。
遠くから、電車のカタンカタンという音が、かすかに聞こえてきます。
まことがあつこに言いました。
「あつこ。そろそろ帰ろう。もう九時過ぎだぞ」
「ううん。まだねむくないから、ここにいる」
「そうか。まぁ、今日は土曜日だから、ちょっとぐらい夜ふかししても、いっか」
 夜の散歩が好きなあつこは、ニッコリと笑いました。
まこととあつこのお父さんは、早くに亡くなってしまいました。だからお母さんは、昼間も働き、夜も、子供たちが眠った後に、街へ仕事にでかけます。
でも二人は、いつも眠ったふりをしていて、お母さんがでかけたあとに、そっと起き出しては、テレビを見たり、たまにこうして、夜の散歩をしたりしていたのでした。
また二人で、えんそうをし始めました。今度は「もみじ」を、おっかけっこの輪唱で。
♪プワーパパプワーパーパーパー
♪ポーポポポーポーポーホー
♪ポロリロポロリロポロリロローン
あつこがすぐに気付いて、ハーモニカをやめました。
「お兄ちゃん…ちがう音が聞こえてくるよ」
「え?ちがう音って?」
「どこからかわかんないけど、ハーモニカでもリコーダーでもない音…」
「気のせいだろ。もう一回やってみるか?今度はかえるの歌にしてみよう」
キョロキョロしながら、吹き始めました。
♪プワープワープワープワーパパパー
ポーポーポーポーポ、ホ、ホー
♪ポロリロポロリロポロリロロン
はっきりと聞こえました。ギターの音色です。二人は目配せしあって、吹き続けながらそーっと歩き回り、その音の主を探しました。





耳をすますと、それは、小さな橋のたもとの、暗い草むらの中から聞こえてくるようです。そこには、背の高い草がたくさん生えていて、川に落ちやすい危ない場所です。このへんの子供は、あまり近寄らないようにしていました。
「あつこ、ちょっとここで待っていて」
まことは一人で、その草むらに近寄り、草をかき分けて、中をそっとのぞきこみました。
そこには、思ったとおり、人がいました。川べりにこしかけて、楽しそうに体を揺らして、ギターを弾いています。
でも、よく見ると、頭にはお皿みたいなものを乗せ、体は裸で緑色。おまけに甲らまでしょっていました。
まことは、思わずさけびました。
「かっぱ!?」
その緑色のかっぱは、ハッと振り向き、目をまぁるく大きくしたまま、こおったように止まりました。
そして、次のしゅん間、川の中にそのままザブンと、飛び込んでしまいました。ギターをそこに、置いたままにして。
「か…かっぱだった…」
まことは、ぼうぜんとしたまま、川面を見つめました。しばらく待ってみましたが、そこには波もんが広がるばかりで、また現れる様子はありません。
「おにいちゃーん!だいじょうぶー?」
あつこの呼び声が聞こえたので、ギターはそのまま残して、あつこの元へ戻りました。
「お兄ちゃん、どうしたの?だれだったの?」
「あつこ…。信じないかもしれないけど、ギターを弾いてたのは、かっぱだったんだよ。おどろいてすぐにげちゃったけど…」
「えーっホントに?もう帰っちゃったの?お兄ちゃんずるい!私もかっぱさんに会いたかったよー!」
「そうだな…かっぱ、ギター置いてっちゃったから、また来るかもしれないよ。また明日、ここに来てみよう」
「うん!またいっしょに音楽会したいね」
二人は、思いもかけないできごとに、こうふんしながら、走るように家へ帰りました。


次の日の朝早く、二人は待ちきれずに、またここに来てしまいました。草むらをのぞいてみましたが、ギターは残されたままでした。
あつこは、かっぱあてに手紙を書き、ギターにはさんでおきました。
その手紙には、こう書いてありました。

かっぱさんへ


もしよかったら、どようのよるに
またわたしたちと
ひみつのおんがくかいを
しませんか。


あつことまことより

その日の夜も、まだギターはそのまま残されていました。次の日も、次の次の日もずっと。
そして、あれから一週間たち、土曜の夜がまたやって来ました。


いつものように、まこととあつこは川へやってきましたが、例の草むらはのぞきませんでした。
その代わり、まことの「かえるの歌」のリコーダーに合わせて、あつこが歌い始めました。
♪かっぱのギターが きこえてくるよ
すると、草むらの中から、
♪ジャカジャーン ジャカジャーン
 ジャカジャーン ジャカジャーン
と、ギターの音が聞こえてきたではありませんか。
二人はうれしくなって、両手をふっておどりながら、続きを歌いました。
♪かぱかぱかぱかぱ かっぱっぱ
ギターの音も、それにちゃんと合わせます。
♪ジャカジャカジャカジャカ
ジャンジャン ジャラララララーン
あつこは、草むらに向かって叫びました。
「かっぱさーーん、こんばんはーー!」
すると、草がガサガサッと動いて、中からギターを抱えたかっぱが、とうとう姿を見せました。
かっぱは、はずかしそうにしながら、
「や、ども」
と、一言だけ言って、おじぎをしました。
まことは、ドキドキしながら言いました。
「かっぱさん、こないだは、おどろかせてごめんね。今日は来てくれてありがとう」
かっぱは、少しだけまわりをうかがってから、二人の方へ歩いてきて、いいました。
「僕の方こそ、おどろかせてしまってごめん。まこと君、あつこちゃん」
背は、まことよりちょっと高いくらい。声は、ちょっと高くて鼻にかかった声でした。名前を呼ばれて、二人はドキドキしました。
「手紙、さっき読んだ。誘ってくれてありがとう。あの夜は、君たちの音楽がとてもステキで、ついギターを弾いてしまったんだ。僕は、マスケっていいます。よろしく」
「マスケくんと会えて、うれしい!私、早くマスケくんのギターがききたい」
「じゃあ、ここだと目立つから、あの橋のたもとのかげに行こう」
三人で、橋の下の暗くなっているところに座りました。このあたりは、夜になるとだれも通らないさびしい場所です。
誰も知らない、ひみつの音楽会の始まりです。
最初にマスケが、かっぱの村ではやっている曲を弾きました。音があちこちに飛んで、あわがはじけているような、かわいい曲でした。
次に、「もみじ」を三人で追いかけっこで弾きました。歌も歌いました。
他にも、いろんな曲をいっしょに演奏しました。マスケは、人間の世界の曲も少しは知っているようで、気持ちよいさざなみのような、ぴったりの伴奏を弾いてくれました。まこととあつこは、マスケのギターの音色に、すっかり聞きほれてしまいました。
そのうちに、あつこは、あまりに気持ちよくて、眠くなってしまい、コクリコクリとし始めました。
「あつこ、眠くなっちゃったのか。じゃあ、今夜の音楽会は終わりにしよう。お兄ちゃんがおんぶしてやるから、ほら」
あつこは、まことの背中におぶさりながら、ムニャムニャとつぶやきました。
「マスケくん…またやろうね…」
マスケは、水かきのついた手で、あつこの頭をなでながら、やさしくいいました。
「いいよ、あつこちゃん。実は、かっぱの世界と人間の世界がつながるのは、土曜の夜だけなんだ。だから、また今度の土曜日にやろうね。おやすみ」
次の約束をしたあと、マスケはギターをちゃんと持って、ふり返ってバイバイしたあと、とぷんと川の中に消えていきました。


そうして、三人のひみつの音楽会が、毎週土曜の夜に開かれることになりました。三人は何回も、楽しい夜を過ごしました。いつも一時間ぐらいの音楽会でした。それぐらいで、あつこが眠くなるからです。
演奏のあいまには、お互いの世界の話などもおしゃべりしあいました。
それで分かったことは、かっぱの世界と人間の世界をつなぐ穴は、川の中にあって、土曜の日没から日曜の夜明けまであいているということ、そんな穴があちこちにあって、かっぱたちは、こっそり人間の世界に遊びに来てるということ。
そして、マスケは一人っ子で、お父さんが、人間の世界のお土産で買ってきてくれた、ギターが宝物で、友達はあまりいないということでした。
「僕、名前がマスケだから、いつも学校とかでは、マヌケマヌケってバカにされてて…。ギターを弾けることも、みんな知らないんだ」
まことは、おどろいていいました。
「えっ?そうなの?もったいないなぁ。かっぱの世界のみんなにも、聴かせたいよ。マスケくんのギター、こんなにうまいのに」
「えっ?うまい?僕のギターが?」
「うまいよ。すっごく!もっと自信持ちなよ。これをきいたら、みんなもバカにしなくなるよ。一度、みんなの前で弾いてみなよ」
「うん…でも…うまくできるかな…」
何かを考えていたあつこが、いいました。
「マスケくん!かっぱの友達、ここに連れておいでよ!ひみつの音楽会にしょうたいしよう」
 まことも、たくさんうなずきながらいいました。
「あつこ、いい考えだな!そうだよ、マスケくん。ぼくらも一緒にやれば、ドキドキしないだろ?じゃぁ、四週間後の土曜の夜にしよう。マスケくん、みんなに声をかけておいてよ。さぁ、練習しなくちゃね!」
「うん…来てくれるかな…」
マスケは、心細そうにつぶやきました。


次の土曜の夜。
三人は、また橋の下に集まりました。
まことが、さっそくたずねました。
「マスケくん。声かけてくれた?みんな来てくれそう?」
マスケは、ちょっとうつむいていいました。
「ごめん…みんな、きょうみないっていうんだ」
まことは、ため息をつきました。
「そうか…。わざわざこっちに来るのって、大変だもんね…」
「うん…それに、マヌケな僕のギターなんて、誰も聴きたいとは思わないよ…」
あつこがそれを聞いて、おこりました。
「マスケくんはマヌケじゃないよ!私がみんなに言ってあげるよ。あっ、そうだ。私たちがかっぱの世界に行って音楽会をすればいいんだよ」
まことは、笑いながらいいました。
「あつこ。そんなことできるわけないよ。かっぱの世界は水の中なんだよ。お前、かなづちだろう?」
マスケが、おそるおそるいいました。
「えっと…できないことはないんだ。空気玉の木っていうのが、僕の村にあって、その実を一個食べると、人間でも一晩は大丈夫だって、言われてる」
 あつこは、目をかがやかせました。
「ホントに?じゃぁマスケくん、その実、試してみようよ。私、かっぱの世界に行ってみたい」
 まことは、ちょっと心配しながら、
「人間が行ってもだいじょうぶかな。かっぱさん、かんげいしてくれるかな」
ときくと、マスケは、答えました。
「子どもだったらだいじょうぶ。今までも、たくさんの子どもたちが、迷い込んで来てるそうだよ。僕のお父さんもお母さんも、大かんげいだよ!」
話はどんどん進んで、今度の土曜日は、一緒にちょっとだけ、かっぱの世界に行くことになりました。

          
いよいよ、かっばの世界へ行く日になりました。いつもと同じく、橋のたもとに九時に集まる約束です。
その夜は、兄妹は早めに、おやすみなさいのあいさつをして、床につきました。
しばらくすると、お母さんは仕事にいく支度をし始め、眠っている二人の頭をなぜなぜしてから、そーっと出かけてゆきました。
「パタン」
ドアの閉まる小さな音を聞き届けると、二人はガバッとはねおきました。
「あつこ。忘れ物ないか?」
「うん。ハーモニカ、リュックに入れた。着がえも入れたよ。ねぇお兄ちゃん…かっぱの世界からちゃんと帰って来れるよね?お母さんが帰ってくる明日の朝までに、大丈夫よね」
「うん、遅くならないうちに帰ろうな」
まことは念のため、誕生日に買ってもらった防水腕時計をはめました。もうすぐ九時です。二人は、暗やみの中、リュックをカラカラと鳴らしながら、川べりの道を急ぎました。
橋へ着くと、もうマスケは来ていました。
あつこは、手をふりながらいいました。
「マスケくんお待たせー!準備オッケーよ。ちゃんと水着も中に着てきたよ」
マスケが笑いながら言いました。
「空気玉を食べれば、全身を空気がおおってくれるから、ぬれないようになってるんだよ。ほら、これが空気玉」
マスケは、ポシェットから、くるみほどの大きさの、丸い実を、二人に差し出しました。
「皮をむいて、中身を食べるんだ。そうしたら、水の中でも息ができるよ」
まこととあつこは、空気玉を一つづつもらうと、少しづつピリピリと皮をむきました。すると、中から、白く光るオパールのような果肉が、あらわれました。
おそるおそる口に入れ、かんでみると、
「パシュッ」
と音がして、風のようなものが鼻をつきぬけました。口の中ではラムネに似た味の果汁が、ピチピチと音を立てながら広がりました。
それをごっくんと飲み込むと、おなかの中で、ジュワーッと泡のつぶがはねているようで、ムズムズします。
マスケは二人の顔をのぞきこんで、ニッコリして言いました。
「うん。空気のまくが出来てる。試しに、水に顔をつけてみてごらん」
二人は並んで、川のほとりにひざまずきました。
「せーの!」
「ザブン!」
まことは、水の中で、口をパカッとあけてみましたが、水は入ってきません。
あつこは、そうっと、鼻をつまんでいた手をはなしてみましたが、やはり水は入ってきません。
空気玉は成功でした!
兄妹はこうふんしながら、両手を何度もパチンパチンとたたき合いました。
そして、三人は川べりに立ちました。真ん中にいるマスケは、右手をまことの手と、左手をあつこの手とつないでいます。
「じゃぁ行くよ」
「うん!」
「オッケー!」
三人は、そろって川の真ん中に向かって、えいっ!とジャンプ。頭から飛び込みました。
ドボン!ブクブクブク…


夜の川の中は真っ暗で何も見えません。
マスケに連れられて、どこかへ泳いでいきます。空気玉のおかげで、水は冷たくないし、息もちゃんとできます。
 でも、あつこは、何だかこわくなって、思わずマスケの手をギュッとにぎりました。
マスケが、二人にいいました。
「ほらあそこ、ちょっとだけ光っているのが見える?あれがかっぱの世界の入り口だよ」
暗やみの中に、三日月のような細い光が、ゆらゆらとゆれています。
まこともあつこも、こわさを吹き飛ばすように、光を目指してバタバタと足を動かしました。三日月がだんだん近づいてきました。
ようやく、その光へたどり着くと、そこは、水の中の土手でした。大きくて平たい石で、穴にふたをしてあるようです。光はそこからもれていました。
マスケが、その石のふたに手をかけて、ゆっくり横にずらすと、中から黄色の光がパァッとあふれ出し、光り輝く大きな穴が、ぽっかりと現れました。
さすがのまことも、ごくりとつばを飲み込み、ブルッとふるえました。
マスケは、二人にほほえみかけながら、いいました。
「ぼくがついてるから大丈夫だよ。この穴は、ぼくの村につながっているんだ。さぁ、はいって」
まず、まことが入り、あつこが入りました。
ポヨンというかんしょくがありました。穴の中には、水がありませんでした。
最後に入ったマスケが、石を元通りに戻しながら、いいました。
「ここからは、かっぱの世界だよ。川の中にあるけど、空気がある世界なんだ。人間の世界よりうすいから、やっぱり空気玉が必要なんだけど」
あつこが、ホッとしていいました。
「あぁ、よかった。だって水の中じゃ、ハーモニカの音が変になっちゃうもんね」
まことも、ようやくえがおになってうなずきました。
マスケが先頭で、トンネルを、明るい方に向かって歩き始めました。不思議なことに、何回か体が軽くなって、天と地がひっくりかえって、まるで宇宙遊泳をしているような感じがしました。
そのうち、ふえやたいこの音が、かすかにきこえてきました。
 耳のよいあつこが、すぐに気付いて、マスケにききました。
「お祭りみたいな音がきこえるよ。なーに?」
「うん、今夜はお祭りなんだ。ぼくたちの村では、毎月さいごの土曜日に、夜通しでお祭りをするんだよ。さぁ、出口だよ」
あんなにまぶしかった光は、いつのまにか消え、出口の先には、ちょうちんのほのかなあかりが、たくさん見えました。


兄妹は、出口からおそるおそる顔を出してみました。そこには人間の世界とほとんど変わらない風景が広がっていました。山があって、森があって、畑があって、田んぼがあって、あかりのともった家がぽつぽつと建っていました。一つだけ違うのは、道がキラキラと輝いていること。道の代わりに、水路が走っていたのでした。
トンネルの出口は、神社のすみにある、大きな大きなクスノキのほらでした。
境内では、たくさんのかっぱたちが、楽しそうに踊っていたり、縁日の屋台で遊んだりしていて、こちらには気付かない様子です。
二人は、初めて見る光景に、急にドキドキしてきて、出口から出られないでいました。
マスケが、クスノキのうらから手招きしました。
「こっちこっち。うらから行こう」
二人はだまってうなずくと、ソロリソロリと木のうらにまわって、マスケに続いて水路の道に、トプンと飛び込みました。
まことが、心配そうにいいました。
「あつこ、泳げるか?」
「うん、空気玉がきいてるから大丈夫」
マスケについて、平泳ぎでしばらく行くと、集落のような場所が見えてきました。
「あの一番手前のうちが、ぼくんちだよ」
かやぶきで、白いかべと木でできた家でした。まわりには、緑の細い草が生えています。
家に着くと、マスケは、玄関前の小さなはしごをのぼりながら、いいました。
「まことくんたちのことは言ってあるから、えんりょしないではいって」
「う、うん」
二人も続いて、ゆっくりと、はしごをのぼりました。
「ただいま。友だちを連れてきたよ」
マスケが、玄関のとびらをガラッとあけると、奥から、たくさんのがやがやする声がきこえました。
まこととあつこは、顔を見合わせてうなずきあうと、エイッと、家の中にはいりました。
「こんばんは!ぼく、まことといいます!おじゃまします!」
「こんばんは!妹のあつこです!おじゃまします!」
おどろいたことに、マスケの家の中には、はいりきれないぐらいのかっぱたちがいて、みんないっせいに、こちらに注目していました。大人かっぱも子供かっぱもいました。
あつこは思わず、まことの後ろに、ヒュッとかくれてしまいました。
一番手前にいたおばさんかっぱが、やさしくいいました。
「マスケの母です。マスケといつも遊んでくれてありがとうね。ゆっくりしていってね
まことは、しょっていたリュックから、きゅうりをたくさん出しました。
「あのぅ、これ、お土産です」
それを見たかっぱたちは、どよめきました。
 マスケのお母さんのとなりに座っていた、おなかがポコッと出たおじさんかっぱがいいました。
「まことくん、あつこちゃん。すてきなおみやげ、どうもありがとう。私はマスケの父です。ここにいるのは、私のしんせきたち。みんなでキミたちを待っていたんだよ。かっぱの世界へようこそ。」
その場にいたかっぱたちも、ニコニコしながら、口々にいいました。
「いらっしゃーい」
「待ってたよー!」
「きゅうり、ありがとう」
まこととあつこは、ずっときんちょうしていたので、ホォ〜…と、その場に座り込んでしまいました。
マスケがそばに来て、二人に湯のみの水をさし出しました。
「かっぱ水だよ。きっと元気が出るよ」
「ありがとう、マスケくん」
「のどが、カラカラだったの」
二人は、一気にごっくごっくと飲みほしました。ほのかに、すいかのような味がする水でした。本当に元気になったような気がしました。
「おみやげ、ありがとう。きゅうりはぼくらも育てているけど、人間の世界のきゅうりは、貴重だから、みんなも喜んでるよ」
マスケのお母さんが、おみやげのきゅうりを、さっそく切って、お皿に盛ってくれました。
大人にはかっぱ酒、子供にはかっぱ水がつがれました。
 マスケのお父さんが、さかずきを高くあげながら、いいました。
「それでは、久しぶりの人間のお客さんをかんげいして、きゅうりパーティを始めまーす!かんぱーい!」
「かんぱあい!」
みんなで、さかずきや湯のみをカチンと鳴らしあいました。
たてに切られたたくさんのきゅうりの横に、いろんな色のみそが、お花のようにそえられていました。赤、黄、緑、紫、茶、黒…。これをきゅうりにつけて食べるようです。
マスケが、黄色のみそばかり食べていたので、あつこも黄色みそからためしてみました。
「からいっ!お水!お水!」
あつこは、涙を流しながら、バタバタしました。
まことが笑いながらいいました。
「あつこ、バカだなぁ。これは辛子に決まってるだろ?ぼくは、この赤いのにするよ。きっと梅きゅうだよ」
まことが、ポリッとかじってみると、みるみると、顔が赤くなってきました。
「わっ!マスケくん!水水!これトウガラシ入りじゃないかーハァハァー」
「アハハッ!ごめんねまことくん、何も言わないで。ちょっといじわるしちゃった。梅味は紫の方」
マスケは、かっぱ水をあげながら、笑いました。みんなも笑っていました。
次からはちゃんと教えてもらって、茶色のもろみみそ味や、黒のごまみそ味でも食べてみました。いつも食べているきゅうりが、何倍もおいしく感じられました。緑みそは大人のかっぱだけが食べていて、鼻をつまんで涙を流していたので、食べないようにしました。きっとこれも、辛いに違いありません。
大人かっぱたちは、お酒がだいぶんすすんで、上きげんに、歌を歌い始めました。
あつこが、それをきいて、ハッとしていいました。
「マスケくん!忘れてた。こっちに来たのは、音楽会のせんでんのためだったんだ。私もお兄ちゃんも、ハーモニカとリコーダーを持ってきたよ。私たちの音楽、ちょっときいてもらおうよ。マスケくんもギターを持ってきて」
マスケは、ちょっともじもじしていましたが、二人にうながされ、やっとうなずきました。
そして、おくからギターをもってきて、かまえました。
「ポロリ〜ン」
子どもかっぱたちが、すぐにワッと集まってきました。
「うわぁマスケお兄ちゃん。それなーに?」
「もっときかせてー」
大人たちからも、せいえんがとびました。
「マスケ、ギターやれるのか。一曲たのむぞー」


まことはリコーダー、あつこはハーモニカを持って、マスケの横に並びました。
マスケが、ギターをコツコツコツコツとたたいて拍子をとり、演奏がスタートしました。
三人の出会いの曲、「もみじ」でした。
ハーモニカがメロディで、リコーダーがコーラスです。そこにマスケの美しいギターの伴奏が入り、あちこちで、ホオ〜ッとため息がもれました。
ハーモニカの懐かしい響きに、リコーダーの素朴なコーラスが合わさると、なんとも言えないジーンとしたものが、みんなの心に広がってゆきました。
ツーコーラス目になると、マスケはギターを弾きながら、歌い始めました。マスケが歌えることを、二人とも知らなかったので、演奏をしながら目を丸くしました。マスケの歌声はとてもあたたかくて、きれいに響いて、ますますため息の数が増えました。
♪ポロリロ…ジャラ〜ン……
演奏が終わると、みんなシーンとしてしまいました。
三人がそろっておじぎをすると、思い出したように、ワーッと拍手が起こり、なかなかやみませんでした。
マスケのお父さんが、こうふんをおさえきれない様子で、いいました。
「マスケ!いつの間に、こんなにギターも歌も、うまくなったんだ?ビックリしたなぁ」
マスケのお母さんも、涙をふきながら、うれしそうにいいました。
「三人の息がぴったりなのが、素晴らしかったなぁ!マスケ、すてきなお友だちができてよかったねぇ。たくさん練習したんでしょうねえ」
マスケは、はずかしそうに、兄妹の方をチラッと見ました。兄妹はニコニコで、マスケのところにかけより、いいました。
「マスケくん!やったね!私たち、すごかったね!」
「マスケくん!すごいすごい!歌うまかったよー!あーでもきんちょうしたなぁー!」
「まことくん、あつこちゃんも、すごくよかったよ。どうもありがとう!一人でギター弾くよりも、ずっとずっとよかった。だからつい気持ちよくなって、歌っちゃった」
三人は、ひみつにしていた音楽会を、初めておおぜいの人の前でやることができて、しかも、こんなに喜んでもらえて、とても感動していました。
そして、三人で両手をパチンパチンとたたきあいました。


窓の外には、すてきな音楽をききつけた、近所のかっぱたちも、おおぜい集まってきていました。
「マスケくんに人間の子たち!よかったよーアンコール!アンコール!」
アンコールの声が、そこら中にひびき渡りました。それをきいたかっぱたちが、ますます集まってきました。
三人は、急いで話し合いました。自分たちの音楽会を、ちょっとせんでんするだけのつもりだったけれど、このチャンスを生かして、もっとたくさんの人に聴いて欲しいと、三人とも思っていました。
作戦会議が終わり、あつこが、エヘンとせきばらいをして、あいさつを始めました。
「みなさん、どうもありがとうございました。アンコールまでもらって、とってもうれしいです。それでは、アンコールは場所を変えて、今から神社でやりたいと思います。よかったら来て下さい」
「おー、それはいいね」
「お祭りがもっとにぎやかになるぞ」
「じゃぁ、行こう行こう」
かっぱたちはみな賛成してくれたので、みんなでゾロゾロと、神社へ向かいました。
その道すがら、あつこはマスケのこうらにのせてもらって、ハーモニカをふきながら、せんでんしてまわりました。
「♪パーパパパー 今から神社で音楽会をやりまーす。パーププー♪ききに来て下さーい」
 一緒にいたかっぱたちも、よびかけてくれて、せんでんの手伝いをしてくれました。


神社でのお祭りは、ひと段落ついたようで、おはやしは鳴っておらず、縁日の屋台だけがにぎわっていました。
そこへ、ハーモニカを鳴らしながら、一行がやってきました。境内には、三人を取り囲むように、あっというまにたくさんの人垣ができあがりました。
今度は、まことが、あいさつをしました。
「みなさんこんばんは。ぼくと妹は、人間の世界からやってきました。かっぱのマスケくんと友だちになって、ひみつの音楽会を開いていましたが、みなさんにぼくたちの音楽をぜひきいてほしいと思って、ここへきました。どうぞよろしくお願いします」
かっぱたちから、拍手が起こりました。
ところが、はじっこの方から、何人かのかっぱがズイッと、前へ出てきました。
例の、マスケのクラスメイトたちでした。
「やーい。マヌケー。お前なんかに、音楽がわかるもんかー」
「マヌケだから、人間と友だちになってもらったのかよー」
あつこは、すぐに飛んでいっていいました。
「マスケくんはマヌケなんかじゃないよ!マヌケって言ったもんが、マヌケなんだよ!」
「なんだとぉー?このチビスケめ」
にらめっこ状態のあつこたちの間に、マスケとまことが割ってはいりました。
「あつこちゃん、ありがとう。さぁ、気にしないでやろう」
あつこはしぶしぶ引き下がりました。
そして、三人は並んで、楽器をかまえました。右はじのマスケが二人を見ました。二人はマスケを見つめ返しました。もう気持ちは落ち着いていました。ひと呼吸おいて、マスケが口でカウントしました。
「ワンツースリーワンツースリー」
アンコールの曲は、三拍子の曲、「エーデルワイス」でした。
あつこは、ハーモニカの音色を、人垣の向こうまで届かせるように、思い切りよく吹きました。
まことは、リコーダーのハーモニーを楽しむように、まあるく響かせました。
マスケは、兄妹との呼吸を合わせながら、きれいなトレモロでつまびきました。
ツーコーラス目からは、またマスケが歌いました。ビブラートのきいた、とてもすてきな歌声でした。お客さんたちも、気持ちよくなってきたようで、だんだん体がゆれてきました。
エーデルワイスが終わると、やはり、たくさんの拍手が起こりました。
さっきのいじめっこたちの方を見ると、予想外の出来事に、バツが悪そうにしています。
あつこは、得意げな顔をしていいました。
「どう?マスケくんはマヌケなんかじゃなかったでしょ」
いじめっこたちの中から、一人のかっぱがでてきました。
「おい、マスケ。お前なかなかやるな。でもな、オレたちだって、それぐらいできるんだぞ。そんなもん、じまんにもならないんだからな」
「じゃあ、やれるもんならやってみなさいよ!」
「チビはひっこんでろ!」
「何よお!」
またケンカが始まってしまいました。
それを後ろの方で、かっぱ長老が見ていました。
そして、おもむろに前の方にでてきて、ケンカの間にはいりました。
「おい、ユウゾウ。女の子相手にいい加減にしなさい」
ユウゾウという名の、そのいじめっこは、シュンとしてしまいました。
長老は兄妹へやさしくいいました。
「人間の子どもたち、私は、この村で一番長生きをしている、長老というものです。遠くから来てくれてありがとう。かっぱと友だちになってくれて、うれしいよ。君たちの音楽会、とってもよかった。久しぶりに胸があつくなったよ。ありがとう」
三人は、赤くなって、おじぎをしました。
長老は白くて長いひげを触りながらいいました。
「そうじゃ。来月のかっぱ祭りは、年に一度の文化祭じゃったな。いつもは、琴や、三味線が多かったけれど、今度はお前たちも出てみんか?いい演奏をすれば、あそこの宝の木が、よいほうびの実を結んでくれるかもしれんぞ。宝の木が勝ち負けを決めてくれることだろう」
 まこととあつこは、長老が指差した宝の木を見ましたが、首をかしげました。それは、ただの木のように見えたからです。でも良く見ると、幹にポコポコとあいている穴のせいで、何だか顔のようにも見えてきて、あつこは思わず、ブルッと身ぶるいしてしまいました。
マスケが付け加えて説明しました。
「あの宝の木は生きているんだよ。いろんなものを、見たり聴いたり感じたりする不思議な木なんだ。年に一度、文化祭の季節に宝の実をつけるんだけど、何かに感動したりすると、いろんな宝の実ができるんだ」
ユウゾウがいいました。
「わかった。オレたちもバンドを作って参加するぞ。お前らには負けない。勝負だ。オレが勝ったら何でもいうことをきけよ。オレが負けたら、何でもきいてやる」
マスケも、いいました。
「ぼくも負けないよ。最高のメンバーがついてるからね」
三人で、にっこりと笑いました。

 
神社での音楽会を終えて、みんなはマスケの家に帰ってきました。またきゅうりパーティを始めました。今度は打ち上げです。
あつこは、ホッとしたせいか、何だか眠くなってきて、ウトウトし始めました。まことがふと、腕時計を見ると、もう十二時を過ぎていました。
「マスケくん、ごめん。もうそろそろ帰るね。あつこも眠くなってきたみたいだし」
「じゃあ、送っていくよ」
あつこは、まことにおぶさると、安心してスーッと眠ってしまいました。
マスケのお母さんが、頭をなでなでしながら言いました。
「ムリもないわ。あんなに大活躍したんだもの…。今夜は本当に楽しかった。また来てね」
マスケのお父さんは、まことのことをムギューッと抱きしめて、背中をポンポンとたたいて、別れを惜しみました。
まことは、少しだけ、小さい時の記憶の中のお父さんのことを、思い出していました。
マスケの両親や親せきたちに見送られながら、三人はマスケの家をあとにしました。
そして、行きの道を逆にたどって、無事に、人間の世界の川のほとりに着きました。
「まことくん、今日は本当に、すばらしい日だった。どうもありがとう」
「マスケくん。ぼくらの方こそ、すごい夜をすごさせてもらったよ。ありがとう。でも、何だか、勝負みたいになっちゃって、よかったのかな…」
「大丈夫。ぼくたちはいい音楽をすればそれでいいし。じゃぁまた来週の土曜日、ここにくるね。練習しよう」
「うん、がんばろうね。かっぱの世界、また行けることを楽しみにしてるね。おばさんもやさしかったし、おじさんに最後抱きしめられた時、なんとなく、僕の死んじゃったお父さんを思い出したなぁ。背中をポンポンってされてたの、久しぶりに思い出しちゃった。よろしく伝えてね…じゃあ、またね」
マスケは、二度ほどうなずいて、川へ消え、まことはあつこをおぶって、真っ暗な道を家へと帰り、バタンキューと、眠ってしまいました。
明くる朝、お母さんは仕事から帰ってきましたが、二人はそれにも気付かず、昼前まで熟睡しました。


土曜の夜のたびに、三人はいつもの場所に集まって、文化祭用の新曲の練習を重ねてきました。
あれ以来、いじめっこたちも、ちょっかいを出したりしなくなってきたそうです。
いよいよ、来週は本番の日です。
練習も終わって、マスケがふといいました。
「そういえば、ぼくたちのバンド名って、まだ考えてなかったね」
三人で、うーんうーんと考えました。
まことがいいました。
「三人の名前を一字づつとって、『まあま』ってどう?」
「いいけど、ママーって、甘えてるみたいだよ…」
あつこが、ポンと手を打っていいました。
「あのね、私かっぱの世界に行ってから、すごくきゅうりが大好きになったの。特にあのマスケくんのお母さんが作ってくれた、きれいな色のおみそ!忘れられないんだぁ。ちょっとからかったけどね。だから、『マアマキューリ』ってどうかな」
まこともマスケも、ニッコリしていいました。
「いいかもいいかも」
「何だかかわいいね。それにしよう」
マアマキューリの三人は、最後にもういっぺん、音をあわせました。文句なしの演奏でした。


そして、運命の土曜日がやってきました。
今夜も、お母さんがでかけたあとに、兄妹は、こっそりと家を抜け出しました。
マスケが橋の下で待っていて、例の空気玉を二人で食べ、エイッと川へ飛び込みました。
久しぶりのかっぱの世界です。やはり、何度行ってもドキドキするものでした。
神社の境内に出ると、不思議ないろんな音がきこえてきました。琴や三味線や太鼓や。大きな拍手の音も聴こえてきます。もう文化祭は始まっているようです。
マスケに連れられて、文化祭用に作られたぶたいのうらの方へ行きました。
ユウゾウたちが、そこにいました。目が合ったけれど、お互い知らん顔をしました。とてもきんちょうしているように見えました。
マスケが、こそこそ話でいいました。
「僕たちの出番は一番最後なんだ。その前がユウゾウたち。ちなみに、ユウゾウたちは、僕に負けたくないみたいで、ギターばっかり5人で出るらしいよ」
まことは、ちょっとクスッとしながらいいました。
「5人ギターも、それはそれでおもしろそうだね。ぼくたちもがんばらなきゃ」
あつこは元気よく、返事しました。
「うん!がんばるぞーー!」
まことは、ステージの横に立っている宝の木を見てみました。
すると、おどろいたことに、そこにはたくさんの透き通った丸い実がなっていました。大きいのから小さいのまで、いろんな色をしていました。
マスケがいいました。
「文化祭をやるのは、この季節だけになる宝の実を収穫する意味もあるんだよ。ほら、小さい実は、残念ながらちょっとしか感動できないで終わったんだね。素晴らしいものを聴かせると、それだけ実も大きくなって、ちゃんと落ちるようになってるんだ」
 二人は、なるほど…とうなずきました。

プログラムはすすんで、ユウゾウたちの番になりました。
「こんばんは。ユウゾウズです。『禁じられた遊び』をやります。きいてください」
そういって、演奏を始めたのですが、これがなかなかどうして、メロディやコーラスや伴奏が、とてもいいバランスで、三人はてきながらも、うっとりとしてしまいました。
マスケがつぶやきました。
「あいつら、相当練習したんだな…」
まことが、ごくりとつばをのみこみながら、いいました。
「ぼくたちは、週に一回の練習だったけど、気持ちは負けないよ」
三人でにぎりこぶしを作りながら、
「ウン!」
と、うなずきました。
宝の木を見てみると、一つの実がだんだん大きくなってゆき、演奏が終わると同時に、ポトッと落ちました。それを係りのかっぱが拾って、ステージのユウゾウにうやうやしく手渡しました。会場から割れんばかりの拍手がおこりました。
ユウゾウが、チラリとこちらを見ました。
三人は、ドキドキしてきました。一つも実がならなかったら負けです。


とうとう、「マアマキューリ」の出番となりました。
マスケがあいさつをしました。 
「こんばんは。マアマキューリです。ほくには、友だちがいませんでした。でも、ギターというステキな友だちを手に入れてからは、誰にもひみつで、一人で楽しく弾いていました。そんな時に、人間の子たちと、一緒に音楽をやるようになって、初めて、一人のさびしさを知ったような気がします。今は、もっとたくさんの友だちと、ひみつじゃない音楽会をして、もっとたくさんの人と、楽しさをわけあいたいと思っています。それではきいて下さい。『小さな木の実』」
三人はお互いを見つめあいました。マスケのカウントからはいりました。
「ワンツースリーワンツースリー」
ギターの音色が悲しく美しく鳴り始めました。
あつこは、一生懸命練習して、吹く息の強さを調節できるようになって、一段と歌うようにハーモニカを吹きました。
まことは、心を無にして、風が吹き抜けるような感じを出しながら、リコーダーを吹きました。
ワンコーラス目はいつものように演奏だけ。それだけでもう、お客さんの目には涙のようなものがキラキラと見えていました。おどろいたことに、宝の木は実を一つ大きくして、ポトッと落ちてしまいました。
ツーコーラス目からは、マスケの歌がはいりました。


♪小さな手のひらにひとつ
♪古ぼけた木の実にぎりしめ
♪小さなあしあとが ひとつ
♪草原の中を駆けてゆく
♪パパとふたりで拾った
♪大切な木の実 にぎりしめ
♪ことしまた秋の丘を
♪少年はひとり駆けてゆく


マスケは、いろんな思いを胸にしながら、歌ってゆきました。ギターも激しくなったり、寂しくなったり変化をしてゆきました。
宝の木はもう二つ目の実が、大きくなり始めていました。
スリーコーラス目は二番を歌いました。サビにはいると初めて、まことがリコーダーをやめて、歌のコーラスにはいりました。声変わりがまだなので、とてもきれいな高音が出ました。まことも、たくさんの想いをこめて、歌いました。


♪小さな心にいつでも
♪しあわせな秋はあふれてる
♪風と良く晴れた空と
♪あたたかいパパの思い出と
♪坊や 強く生きるんだ
♪広いこの世界 お前のもの
♪ことしまた秋がくると
♪木の実はささやく パパの言葉


最後は寂しく何回もリフレインをしながら終わりました。お客さんたちは全員涙をふくことも、拍手をすることも忘れて、ぼんやりしていました。
「ポトッ」
と、宝の木の二つ目の実が落ちました。その音で、ハッとなり、お客さんは立ち上がって拍手をしました。
三人は、やりきってしまって、放心状態でしたが、宝の実を二つ、ステージに持ってきてもらって、ようやく我に返りました。
ユウゾウズのみんなと長老も、ステージにあがってきました。
長老がいいました。
「この前の演奏もよかったが、今回もよかった。またワシの心の宝物が増えたよ。ありがとう。宝の実も正直じゃ。二つも実ったよ。どういう宝の実かは、持っているうちにだんだんわかるだろう。大切にな」
ユウゾウは、ちょっと泣いているようでした。
「お前ら、よかったよ。素直に負けを認める。マスケ。お前のことバカにして、今まで悪かったな。何でもいうこときくぞ」
マスケも、なぜか涙が出て来ていました。
「ユウゾウズ、すごかったよ。ぼくも感動した。じゃぁ、ぼくののぞみを言うよ。ぼくと一緒に、バンドやろうよ。いれてくれるかい?」
ユウゾウはニヤリとして、いいました。
「もちろんだよ」
二人は固い握手をしました。
そのあと、まこととあつことマスケで、ワーッと抱き合いました。夢だった素晴らしい音楽会ができたことを、涙を流して喜びあいました。マスケは、まこととあつこの背中をポンポンとたたいて、
「ありがとう。ありがとう。大好きだー」
と、さけびました。
「私も大好きー!」
「ぼくも大好きー!」
と叫んで、顔を見合わせて笑いました。
そして、ユウゾウズとマアマキューリ全員で、握手をしあいました。
会場からは、おしみない拍手がいつまでもなりやみませんでした。


さて、それからは。
毎週土曜日は、マスケもユウゾウズのみんなも人間の世界にきて、音楽会をするようになりました。
月に一度は、まこととあつこがかっぱの世界に行って、音楽会です。
宝の実は、マスケに一つ、まこととあつこで一つ持っています。どうやら、耳をつけると、向こうの音が聴こえる実のようです。電話みたいなものでしょうか。
毎週土曜日、結構、堂々と行き来しているけれど、人間のみんなにはまだ知られていないようです。


もし、土曜の夜に、川のほとりからすてきな音楽がきこえてきたら、そうっとあなただけのひみつにしておいて下さいね。
でもあなたがもし、一緒に音楽を楽しみたいのなら、楽器や歌で、演奏にはいってきてくれれば、いつでも大歓迎するそうですよ。ヒミツの音楽会は、すぐにひみつではなくなりますから。



                           おしまい